しかし、絵画の統合に関する現代の倫理を知るために、話を今日の例にとることにしましょう。  そのなかで最も重要な修復例となるのが、1488〜90年に描かれ、現在はウフィッツィ美術館に展示されているボッティチェッリの作品『聖母の戴冠』の修復です。  今世紀の初め、この絵画は深刻な質的劣化の徴候を示していました。そこで、1921年に高名な修復家ファブリツィオ・ルカリーニによって修復が行われました。しかし、絵の具の剥離が数多く認められたために、1940年に美術館の展示からはずされました。そして、数年前にふたたび修復の手が加えられました。しかし、絵の具の定着作業ののち、この作品は塗り直しと統合の問題に直面したのです。  塗り直しの問題については、たとえ統一的な作業方法に従うとしても、この作品が置かれているさまざまな状況を考慮に入れるような、そんな個別的な作業上の選択が必要となりました。そして、天使の緑色の衣裳に大きな注意が払われましたが、それは、この部分は絵画の他の箇所と色彩上の差が現れておらず、他の箇所によく適合しているためです。現在、ルカリーニがこの衣服の再現のために行った数多くのテストを比較し、また、オリジナルの色彩とは異なる色彩に対する赤外線測定を行ってみるならば、彼の修復家としての卓越した技量だけでなく、この微妙な作業中に彼が示した絶大な敬意の念についても容易にそれを確認し、評価することが可能です。こうした箇所 ―― ただし、下塗り(メスティカ)の劣化は受けていません ―― においては、洗浄作業は、ニスの最も外側の層の除去にかぎって行われましたが、ニスの層を軽くしたばかりの聖エリギウスの左手の部分については、周囲の本来の色彩に関して、手を入れた箇所と絵画の他の箇所とのあいだに存在する不均衡がすぐに浮かび上がってきたのです。  しかしながら、こうした修復が、おそらく原画の記憶に基づき行われている点から図像的なガイドの役割をはたしているだけでなしに、いまや蓄積・確立された歴史的事実となっていることを考慮にいれ、それを除去することはせずに、ニスに薄い色彩の層――この層は、その下の層の絵の線をなぞり、その色調を変えており、簡単に区別がつく――を重ね、絵画的修復による色彩の再現を通して絵画の他の箇所になじませるという処理が決定されました。しかし、塗り直しによって全面的に覆われているもうひとつの重要な箇所である野原の部分は、手を入れた箇所を完全に除去する形で洗浄されまた。 なぜなら、断層調査や洗浄試験によって、もともとの平原の大部分が存在していることが明らかにされたからです。

images: Nardini - Firenze
イメージ提供: マッシモ・セローニ

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