もうひとつの例は、アンドレア・デル・サルトの『アルピエの聖母』ですが、この作品については、ジョルジョ・ヴァザーリが、はっきりとしない、スフマトゥーラ(ぼかしの技法)による絵画的な特殊効果とみなされる「透明な煙の雲」をもっていると述べています。
修復前にはこの絵画は、17世紀から18世紀にかけて塗られた動物性の膠の層のために、黒ずみ、黄ばんでおり、その上にはさまざまなニスの層が塗り重ねられていました。洗浄を行ってみると、上部にはほんとうの煙の雲が現れました。この発見は、この絵画が『ヨハネの黙示録』の記述と合致することを示す新たな解釈を許すものでした。実際、この絵のなかの台座に描かれていたのは、これまではアルピエ(ハルピュイア)と考えられていましたが、聖書の記述と合致する蝗(いなご)であることがわかりました。「大いなる爐(ろ)の煙のごとき煙、坑(あな)より立のぼり‥‥煙の中(うち)より蝗(いなご)地上に出でて‥‥」(ヨハネの黙示録第9章2〜3節)
いずれにしても、たとえ最も適切な診断技術を駆使しても、洗浄前に存在していたあらゆる疑念をつねに解消することはできません。
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