1.額込の作品写
真記録
額とともにお預かりしており、そのときの状態を証拠資料として残すべく行った。画面
と裏面全図の通常光写真、画面全図の斜光写真、額裏面のラベル部分写
真、止め具の部分写真
2.額縁から作品を分離
作品は裏面で額の止め具と作品裏面の保護紙と止め具の間に挟まれた木片でねじ止めされていたので、ねじを取り外して額縁から作品を分離した。
3.作品額分離後の写真記録
画面と裏面全図の通常光写真、画面全図の斜光写真、画面部分写
真、裏面保護紙のラベル部分写真
4.作品裏面の保護紙を分離
作品裏面には柿渋加工された保護紙が釘止めされていたが、釘山はさびて木枠側に入り込んでニッパーが使えなかった為、竹へらを使って保護紙のやぶけを最小限にするよう注意しながら作品と分離した。保護紙を取り除いた後、ニッパーを使って釘を外した。
5.作品裏面の状態調査
保護紙を取り外した後、作品裏面の状態を調査した。制作年月日と思われる日付の書かれたラベルが発見された。また楔が1つ欠損していることも分かった。
6.裏面保護紙除去後写真記録
作品裏面全図の通常光写真
7.溶剤テスト
通常光、斜光、紫外線による損傷状態の観察および今後の処置に必要と思われる水分のテストを行い、地塗りが水溶性であることが分かった。また画面
表面の汚損は水で除去できた。絵具層ではアルコールで赤い絵具が溶解することが分かった。アセトン、ナフサ、リグロイン、ミネラルスピリットは各色共溶解しなかった。
8.画面洗浄
ニス層はアルコールで急激に溶解し、アセトンで緩やかに溶解したが、ナフサ、リグロイン、ミネラルスピリットでは溶解しなかった。
画面表面に溜まった埃などの水溶性の汚れを除去するために、コットンに少量
の精製水を含ませて画面表面を洗浄した。但し画面左側は画面
が乾燥しかさかさしてコットンが引っかかりやすいので絵具層の状況を見ながら慎重に行った。
9.周縁部ドライ洗浄
作品周縁部には埃などによる汚れが多く付着していたが、地塗り層が水溶性のため水洗浄ができないので、練り消しゴムを使ってドライ洗浄を行った。
10.周縁部地塗り層接着強化
ドライ洗浄を行った結果、周縁部の地塗り層がかなりもろく剥離の危険性が確認されたため接着強化を行うことにした。接着剤を選定するため接着剤テストをした。溶剤型接着剤のプレキシゾルをミネラルスピリットで1:3に希釈したものと、エマルジョン型接着剤のラスコー498を水で溶いたものでテストを行った。テストの結果
、 地塗り層が水溶性のためエマルジョン型のラスコー498では水分を入れることによって地塗り層が弱くなる危険性があることと接着力が不十分だったため、溶剤型のプレキシゾルを使うことにした。プレキシゾルをミネラルスピリットで1:3に希釈したものを周縁部地塗り層剥落
部付近を中心に筆で塗布した後、過剰な接着剤をミネラルスピリッツを使って拭き取り、更にコテアイロンを使って加熱接着をした。
11.裏面日付ラベルの除去
作品裏面の洗浄とラベルの裏打ちをするため、メスを使ってラベルを作品から外した。
12.作品裏面のドライ洗浄
保護紙があったために著しい埃などによる汚れはないものの、埃が大気中の汚れや水分を吸収して後にかび発生の原因にならないようにドライ洗浄を行った。筆と掃除機を使って表面
の埃を取り除いた。
13.木枠のドライ洗浄
木枠裏にキャンバスを張り込んでいた釘を取り除き、木枠裏側を8号以上の豚毛の平筆で裏面
のほこりを掃き、吸引力を最小にした掃除機で作品に触れないように吸い取ってドライ洗浄を行った。その後取り切れなかった埃は練り消しゴムを軽く押し付けながら取り除いた。
14.キャンバス張り込み直し
キャンバスの張りにむらがあり弛んで変形している箇所があったので、張りが均一になるように釘を抜きながらタッカーで木枠に張り直した。キャンバスの耳は張り器で引っぱるのに十分な長さが残っていたためそのまま行った。キャンバス自体の支持体としての強度に問題はなかったが、上に絵具層があるため必要以上に牽引しないよう注意しながら張り直した。これにより張りむらや弛みは改善され、同時に変形も解消された。
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