Kermes No.36 1999 sep-dec

 

カラヴァッジョ作「巡礼者の聖母」まもなく修復
La"Madonna dei Pellegrini" del Caravaggio pronta per il restauro


 

 アンナ・マリーア・ペドロッキの監修の下、カラヴァッジョの「巡礼者の聖母」の修復が始まろうとしている。X線、UV線、IR線、XRF等での一連の非破壊基礎調査が終了し、修復家のヴァレリア・メルリーニ、ダニエラ・ストルティ と作業場管理最高責任者のバルバラ・ダミアーニは、珠玉の名画の修復に取り掛かろうとしている。
  ジョバンニ・バッティスタ・パッセリのカラヴァッジョ伝によると聖なる乙女マリアを表現するために、このモデルは、画家カラヴァッジョ自身によって選ばれた。そしてここで、予想もできない出来事が起きるのである。この娘レーナは、カラヴァッジョの住んでいた近所の娘であり、ジョバンニ・パスクアローネという公証人から花嫁に迎え入れたいという申し出があった。しかし、この有り難い申し入れは、何度となく断られ、パスクアローネは、画家と娘が愛人関係にあると勘ぐり、2人をものすごい勢いで詰った。
 それを知ったカラヴァッジョは、斧でこの哀れな求婚者に一撃を喰らわしてしまったのである。このため、カラヴァッジョは、何年も殺人刑で服役せねばならなかった。 この絵は、聖アゴスティーノ教会のために、カヴァレッティ家によって、1604年に注文された。パスクアローネの殺人事件は、1605年7月29日の出来事であった。

カラヴァッジョ作「巡礼者の聖母」
聖アゴスティーノ教会(ローマ)


ヴェナリア王宮の保存
La conservazione della reggia di Venaria


 サヴォイア家のカルロ・エマヌエーレが、ヴェルサイユ宮殿に対抗する建造物を要求し、そのピエモンテの<解答>が、このマストドンのごとき巨大なヴェナリア王宮である。
  この王宮は、当初アメデオ・ディ・カステッラモンテによって建造が始まった後、時代ごとに計画性もなく拡大増築されていった。そして、そのことが、前代未聞のアブノーマルな建物を創ってしまったのである。建造物は、サヴォイア家の独占区での狩りを行うため建てられ、完成前から住まわれていた。ルイ16世の軍隊によって壊滅的な被害を被ったが、ヴィトリオ・アメデオ2世の命で、ミケランジェロ・ガローレによって1713年に修復された。
  今回は、<ヨーロッパ援助資金が打ち切られる>2001年までに、2兆4000億リラを投じ、エンジニア、美術史家、建築家、地層学者、庭園技師で構成される400人以上もの専門家たちによって修復が行われる。近日中に修復の完了が見込まれている建物の中に、ベネデット・アルフィエーリが18世紀に設計した厩舎があり、そこには、保存修復センターが設置される予定である。
 1999年9月の作業開始に因んで、市による催し物<ヴェナリア2001>が10日間の日程で同時開催された。王宮の庭には仮展示場が張られ、修復の指針と動向の解説や、セミナー、展示などが行われた。 ヴェナリア王宮の保存修復作業は、ここ数年の事業の中でも、ことにわくわくさせられる挑戦だ。

 


完成に向かうヤコポ・デッラ・クエルチャ作
「ガイアの泉」の修復
La Fonte Gaia della Jacopo della Quercia: un restauro in fieri


 フィレンツェ輝石修復研究所が、シエーナにあるヤコポ・デッラ・クエルチャ作「ガイアの泉」の*オリジナル作品の修復作業を<受胎>させてから10年目を迎える。(*1869年からは、シエーナでは、コピーが設置されていた。)この修復では、幾つもの意味深い結果が浮上した。
 修復作業所は、サンタ・マリア・デッラ・スカーラ(階段の聖母)教会に設置されていた。(そこで最終的に修復の仕上げ作業が行われるようになったが)そこでは、輝石修復研究所によって修復された噴水の部分デコレーションと1859年にパラッツオ・プッブリコ(公の宮殿)にマテリアルが移動された時にティート・サロッキによって造られたコピーが同時に展示されていて、魅力的な公開の仕方になっていた。オリジナル作品を手本にし、様々な時代に造られた複製、鋳型、エスキースも、いうまでもなく興味深い。
  このように学術的に作品を公開できたのは、サンタ・マリア・デッラ・スカーラ協会と文化財監督局-歴史芸術監督局(BAS)と建築環境遺産監督局(BAA)、およびボローニャ大学のマッシモ・フェレッティ教授の見事な監修の賜である。


色彩豊かなケレス神殿
Cerere a colori


   考古学博物館のこけら落としにパエストゥムでは、<ケレス神殿>と呼ばれる神殿の修復が紹介された。1996年に始まったこの修復作業の目的は、スタッコの細部を復元することと、もともと在った神殿の色彩を甦らすことであった。
  赤やブルーの色彩の欠片が、円柱の柱環に刻まれているヤシの葉の装飾から見つかった。 苔類や長年の汚れをクリーニングされたトラバーチンは、輝きを取り戻した。
ケレス神殿(パエストゥム)

 注意深いクリーニング作業を施せば、石は絶対といって良い程、ポジティブな結果を齎してくれる。また細部の決め細やかな充填作業は、水の侵入を防いでくれる。
  修復作業は、ローマ修復協会に委託され、サレルノ文化財監督局の監修の下、ローマ中央修復研究所(ICR)の厳しい管理下に置かれている。 科学監修は、サレルノ考古学監督局(SA)が行っている。現在は、ネプチューン神殿とバジリカの修復が進められている 。


Copyright(c) Nardini editore All Rights Reserved. 
このページのコンテンツの著作権は、ナルディーニ社&ランビエンテ修復芸術学院に帰属します。