現代美術から古典美術まで、あらゆる修復における基本コンセプト

<最小限の介入>

ナタリーア・マテラッシ
(翻訳 )西山 隆介

 コンテンポラリーアートは、作品自体がきわめて脆く諸問題を有することもあり、その保存についての研究は、エイジング(老化)の概念を作品が内包している一つの要素として捉えることで、適切な考察への道に導かれるようになりました。
 現代に創られた作品においては、素材の定着がまだ十分に安定してないために、常にまた予測不可能に変化し、劣化していくことがあります。また支持体が脆弱し、あるいは絵画層が酸化していて、作品として鑑賞に堪えられる状態が危ぶまれるほど損傷の激しいものもあります。これらの作品では、どのようなマテリアルを修復で用いたとしても、様々な害のある反応を引き起こしたり、作品の美観や表現にまで影響を及ぼしたりします。

       
opera1 opera2 opera3 opera4

 このような認識が広まってゆくなかで、修復のプロセスとマテリアルに対する関心は高まり、その基本原則がクローズアップされるようになりました。すなわち、作品への最小限の介入です。「どうしても必要なところまで」、つまり、修復の効果について明確なビジョンをもった上で、修復計画に取り組むのです。

tavola a bassa pressione

 今日では、テクノロジーが向上したというだけではなく、処置に関してもより入念に行われていて、素材の健全性の回復という意味での修復のみに限られています。それは現代作品だけに限ったことではありません。アイロンを使って絵画を平坦化するのは、誤った行為と見なされますし、裏打ち自体も最後の手段としてのみ行われます。クリーニングや保護ワニスの除去もより慎重に、かつ熟慮された上で行われます


retro di dipinto

 絵画作品のすべての部分――特に裏面に関して――に注意が払われます。実際、コンテンポラリーアートは人々に素材そのものを楽しませる習慣を育んできました。木枠、そこに使われた釘は作品の歴史といえます。作品の構造と変遷は、修復の理論の中央に位置づけられることになり、歴史的な視点が求められ、画一的な技術は使われなくなりました。修復の既定法則は必要でなくなり、それぞれのケースに対応できるように方向付けられた<視点>が必要とされるようになりました。

 最小限の処置<minimum intervation>とは、作品にはそのバランスと安定を超える処置は必要ではないという意味です。賢察と静観が強く要求され、スタンダード化された方法と月並みなテクニックは排除されます。作品一つ一つは、唯一のケースであるということを念頭に置かなければなりません。したがって、様々な出来る限り多くの処置方法に精通していることが要求され、何よりも作品を尊重することをたえずモチベーションの基本にしながら、その中で一番破壊の少ない方法を選ばなければなりません。


 「最小限にすることとは、すべての修復処置が、保存修復の作業前と作業中と作業後における作品へのストレスと損傷をミニマムにするという意味です。したがって、<minimizzare = 最小限にする>という用語は、よりよくする、そしてできれば過去の修復の誤りと過剰に加えられた材料を取り除くという意味もあります。」(Speroni.pp.37).
  このような視点で、破れの繕いについて言及すると、これは大変細かい外科手術のようなものでありますが、柔らかい接着剤を使ってオリジナルの様々なキャンバスの糸の先の部分を接合し、別の布を使って布を二重に重ねることなく、作品を再構築します。

verso

絵具層の固着強化は、合成樹脂を用いて、低温ないし冷温で行います。絵画の裏側からおこなう、裏打ちや2重木枠補強のような、破壊的な介入を伴うすべての裏面処理は排除されます。
 しかし、修復の介入がどれほど最小限であったかどうかは、予見した結果への到達度によって決まります。各処置とその重要性の評価は、修復士の専門家としての倫理に帰するものであることは言うまでもありません。




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anno scolastico 2007-2008 Istituto L'AMBIENTE