保存修復の分野において、科学が寄与する恩恵を度外視することができないことは、もはや一般的な定説となっている。
修復のための基礎データを得る目的で、芸術家の手によって生み出された作品にたいしても、ヴァリエーション豊かに且つ学術的に医学の診断技術が応用されたのである。このやり方によって、はじめて、作品を科学的に物質としての側面から深く理解できるようになり、現在かかっている<病気>や物質の変化などの保存状態についても深く知ることができるようになった。
この調査は、自分自身が行った保存と修復処置に対して、正当な意見を述べるための必要不可欠な証となる。このためにも、この分野で働く一人でも多くの修復家が、「科学抜きでは、今日の保存修復はあり得ない」ということを深く認識するべきである。
本書は、今日まで様々な作品が調査された、種々多様の科学的メソードをベースにした原理・法則を例示している。各メソードに関しては、この分野で働く全ての技術者が理解しやすい言語を使用した。診断の実用目的、調査の限界、応用分野と調査で得られる結果を明確に論じている。
マウロ・マッテイーニとアルカンジェロ・モレスは、イタリア文化環境庁所属の化学エキスパートたちである。彼等は、イタリアが外心を込めて創った科学分析ラボを持つ2つの国立修復研究所のひとつ<輝石修復研究所>とフィレンツェの修復ラボで研究を続けている。
彼等は、毎日新しい保存修復の問題に直面し、また世界各国から協力要請を受けることもしばしばである。輝石修復研究所付属修復学校では、藝用化学、修復化学、文化財の調査メソードを教えている。
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